耐食性
サビにくさ = マルテンサイト系 < フェライト系 < オーステナイト系
ステンレスの代表的なSUS304に対してSUS316はニッケルを増量して、モリブデンを添加しております。
これは耐酸性改善及び対孔食性を改善する効果があり、化学薬品にも使用され磁性がより帯びにくいのが特徴です。
鉄に12%以上のCr(クロム)を含ませると、鉄が酸化するよりも先に Crが酸化し、表面全体に酸化クロムの膜ができます。この膜は無色透明で、とても薄いので肉眼では識別できません。
しかもこの膜は科学的に安定でとても強固。また、ち密で酸素を通さないのでサビの発生を防ぎます。
オーステナイト系 ステンレス鋼の中でも SUS316は特にサビに強いステンレスです。
外観 海浜環境(瀬戸内海沿岸)での10年間暴露試験後の表面状況
参考資料:新日鉄住金ステンレス㈱より抜粋
ステンレス鋼の中でのSUS304とSUS316の使い分け
■代表的なオーステナイト系のステンレス鋼には、SUS304とSUS316があります。
この両鋼種には成分に差があり、SUS304には約18%のクロム(Cr)を含みますがモリブデン(Mo)が添加されていません。
これに対し、SUS316にはCrに加え約2%のMoが添加されています。
これにより、両鋼種で材料の特性にどのような差があるかと言うことですが、材料性能の中で引張強度などの機械的な特性には、大きな差はありません。
両鋼種の主な差は、耐食性にあります。
ステンレス鋼の耐食性は、表面に生成する「不動態皮膜」と呼ばれる薄い皮膜(10nmのオーダ)の性能によっています。
ステンレス鋼の場合に、この不動態皮膜を形成する主な成分は、CrとMoです。
これらの濃度が高いほど、不動態皮膜がち密で耐食性が良好とされています。
また、Mo濃度の不動態皮膜の耐食性を向上させる効果は、Cr濃度のおよそ3倍とされています。
すなわち、以下の通り示されます。
ステンレス鋼の耐食性(不動態のち密さ)∝[比例する]Cr+3×Mo
このように両鋼種で不動態皮膜の耐食性に差があるため、全面腐食が生ずる限界のpH(このpH以下で全面腐食の生ずる限界値)は、図に示す様にSUS304の場合に約2、SUS316の 場合に 約1.5とされています。
すなわち、耐全面腐食を示す環境の範囲が、SUS304に比較してSUS316の方が広く、耐食性の良い材料と言えます。
しかし、Moは酸化性酸環境で耐食性が劣るので、硝酸環境などの強酸化性溶液では、 SUS304とSUS316の耐食性の逆転する場合もあるので、注意を要します。
孔食やすきま腐食の局部腐食の発生する環境条件(塩化物濃度、温度、酸化性)も、SUS304に比較してSUS316の方が厳しい条件まで耐える場合が多いと言えます。
このため、例えば冷却水環境で、SUS304にすきま腐食の生じたい場合に、SUS316へ変更することによりその発生を抑制できる場合があります。
しかし両鋼種の耐食性の差は、決定的に大きい訳ではないので、すべての環境条件SUS304に生じた局部腐食を、SUS316で解決できる訳ではありません。
塩化物環境での応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:SCC)に関しても、SUS304に比較してSUS316の方が生じにくいとされています。
例えば、冷却水環境でSCCの生ずる下限界温度は、SUS304で約60℃とされていますが、 SUS316では100℃程度とする報告もあります。
しかし、これも絶対的な耐応力腐食割れ性の差という訳ではないことを注意する必要があります。
以上のように、SUS304とSUS316の耐食性の差を把握して、使い分ける必要があります。
{常温、脱気の塩化物環境での試験結果.小野山征生ら:防食技術、Vol.28、p.532(1979)}
化学装置材料の基礎講座・第5回 | 旭化成エンジニアリング より